書籍紹介:すべては「先送り」でうまくいく ――意思決定とタイミングの科学

フランク・パートノイ,上原 裕美子:すべては「先送り」でうまくいく ――意思決定とタイミングの科学.ダイヤモンド社,2013/03.

本書の目次

はじめに──あなたは「いつ決めるべきか」を知っているか?
第1章 人は「先送り」で進化した
  ──心に備わる遅らせる仕組み
第2章 一流のアスリートはみんな先送りのプロフェッショナル
  ──極限の状況で使える時間を拡張する3つのステップ
第3章 「先送り」は利益を生む
  ──高頻度取引の世界で起こった「変な事態」
第4章 この世は急かすものばかり
  ──サブリミナル・メッセージが怖い本当の理由
第5章 直感が導く最悪の決断
  ──意思決定はこうしてゆがむ
第6章 専門家であればあるほどかかる病「シン・スライシング」
  ──無意識に流されないための「一時停止」のパワー
第7章 パニックを制するものは、会話と決断を制す
  ──タイミングをつかむための「間」と沈黙の使い方
第8章 恋も戦闘も「見た目」でダマされるな!
  ──タイミングを武器にするための「待つ技術」
第9章 いつカラスを食らうべきか?
  ──ちょうどよいタイミングの謝罪とは
第10章 ジョージ・アカロフが抱えた「スティグリッツの箱」
  ──よい先送りと悪い先送りを見分ける方法とは?
第11章 最高の投資戦略は、何もしないこと?
  ──ギリギリまで待つこと、すべてはそれから
第12章 時計を外して、減速を
  ──時間に縛られずに意思決定するために
第13章 イノベーションは一瞬のひらめきだけでは生まれない
  ──アイデアは待つほどに磨かれる
第14章 急がば回れ
  ──人生と社会をよりゆたかにするために
謝辞
注記 ──本書をより深く、ゆっくりと楽しむために──

内容紹介(Amazonより)

先送りをする力は、人間が人間たり得るための重要な条件だ。
その力は贈り物であり、人生を決めていく道具でもある。
  ――本書299ページより
■「早ければ早いほどいい」という常識は本当なのか?
  ――意思決定にまつわる誤解を解く!
意思決定についてこれほど多くの著書が出されているのにもかかわらず、
なぜいまだに我々はこれほど頻繁に間違いを犯すのか?
この永遠の課題とも言える「決断」や「意思決定」の中でも、
◯「どう決めるか」よりも「いつ決めるか」が大事であること
◯「どのタイミングで決断するとうまくいくのか」
という2点について、行動経済学、心理学、生理学、神経科学といった膨大な科学的成果と、
スポーツや軍、サブリミナル映像、政治家の「失言録」といった広範な事例をもとに解き明かします。
  — 中略 —
金融、行動経済学、法律……多彩な分野それぞれで最高峰の研究を掘り下げたパートノイは、
痛快な筆致で、シンプルかつ腑に落ちる結論を導き出した。
このあわただしい現代生活で、私たちはあまりにも急ぎすぎている、と。
本書は、ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』に並ぶ、
人間の意思決定に隠された欠陥を暴き出す「パイオニア」と言うべき書である。
  ――ロジャー・ローウェンスタイン『天才たちの誤算 ドキュメントLTCM破綻』

本書は、ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』に並ぶ、
人間の意思決定に隠された欠陥を暴き出す「パイオニア」と言うべき書である。

これは言い過ぎ.「ファスト&スロー」は学術書であり,非常にアカデミックで,
行動経済学,認知心理学の先進的な知見が盛り込まれた本だけど,
この本はどちらかと云えば,読み物系の本で,行動経済学や認知心理学といった,
所々の学術領域の中で,人の意思決定とそのタイミングについて,
研究され得られた様々な知見を集めてきて分かりやすく紹介した本.

そういう意味で,「意思決定とタイミングの科学」という副題はちょっと本書を誤解させる.
副題を読むと,意思決定とタイミングの数理について,
体系的に纏められた調査論文,あるいは研究文献,の様な印象を受ける.
でも,そういう本では無くて,様々な学問領域から得られた知見を,
その具体的事例とともに分かりやすく紹介するという本.
「すべては「先送り」でうまくいく 」というタイトルだけの方が良かったかも.
副題から感じられるような,アカデミックな感じの本ではなく,
あくまで主題から伝わるような,読み物系の本.

そして,読み物系の本としては,非常に読みやすく,そして面白い.
面白く,するすると深い知見が得られるような本だと思う.

行動経済学,認知心理学,スポーツ科学,神経科学,様々な学術分野,
様々な方向性から,人の意思決定について,そしてそのタイミングについて,
時に解剖学的に,時に生物学的に,時に心理学的に説明され,
色々な具体的事例とともに,色々な知見が紹介される.

もちろん,行動経済学に関する読み物としても非常に読み易くお薦めで,
プロスペクト理論や双曲割引と云った概念も,直接的に説明されているところもあれば,
言明されていない部分についても通じる話もあったり.色々考えながら読めばなお面白い.

投資に関する具体的事例なんか,投資家には馴染み易い話だったり.

システム1,システム2の話であったり,事例ベース意思決定理論,期待効用理論の話,
そういう概念枠組が背景にある事例なども紹介されていたりして,
ただ,そういう概念枠組はさておき,載っている事例が非常に多岐に渡り,
広範で面白い.実に面白い.

まあ,意図的にだろうけど,難しい用語とか理論は本文では出てこないので,
(注記のところで,さらっとそこら辺の非常に濃い説明が載っていて面白かった)
本当に読み物的な,行動経済学あるいはその他学問領域の概念枠組に基づいて,
行動哲学,意思決定についての哲学を解く,って感じの内容かな.

ただ,アマゾンのカスタマーレビューで書いている人もいたけど,
「遅延」「先送り」「先延ばし」の概念が明確に分けられておらず,
頭を空っぽにぼーっと読む分には詰まることは無いし,
また,深く考えなければ,混同しても趣旨を誤解する事は無いかも知れないけど,
深く考えながら読もうとすると,この辺の概念が混同されているために,
難読する部分,理解に困難を感じる部分があるかも.

僕は原書は読んでいないので,どこまで翻訳が適切なのかは分からないけど,
おそらく訳者の方は,読み物としての読みやすさを優先して訳したのではないかなと.
その意図通り,読み物としては非常に読みやすく,面白い本だと思う.
ただまあ,上述の通り,突っ込んで読み出すとちょっと詰まる部分があるので注意.

という訳で,「いつやるの?」「今じゃないんだな!」っていう本なのでした.
読み物として,ちょっとした息抜きに,この分野,あるいはもっとざっくりと,
人の意思決定というものについて知りたいという人にお薦めの一冊.



すべては「先送り」でうまくいく ――意思決定とタイミングの科学

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