ナレッジマネジメント/ビジネス思考の本10冊

佐宗 邦威:21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由

デザイン思考とは何か.本書は極めて含蓄に富んだ良著であると思う.
その事を最初に言明した上で,敢えて本書の内容そっちのけで,
自分が考える「デザイン思考」について,そしてその重要性と,
今後この時代だからこその必要性について語りたい.

僕は常々「Design」が大事であると考えている.
「デザイン」ではなく,敢えて「Design」と評するのは,
「Design」とはデザイン思考そのものであり,その結果として
得られる合理性についてメタファーするもの,或いはそのスキームとして考えているからだ.
近年の科学は要素還元主義的立場から発展した.その事実は疑いようがない.
一方で,要素還元主義的議論は,因果性を重視する余り,ミクロの視点に囚われ,
マクロに於ける合理性が失われている嫌いがある.
また,余りにも複雑化した現代においては,
因果性は完全にブラックボックスで分からない事の方が多い.
とすれば,因果性に囚われず,マクロに相関性の観点で議論をした方が尤もらしい.
その時,重要なのが全体主義的観点であり,その観点から得られた合理性だろう.
また,要素還元主義的議論は,往々にして帰納的推論の結果であり,アブダクションの結果である.
演繹的推論による合理性が失われつつある中で,だからこそその重要性が増している.
Designとは,究極的には全体主義的観点に於ける全体合理性であり,
演繹的推論のプロセスによって得られるパレート解であると考える.
究極のDesignは,議論の余地のない完璧な解を得るが,
現実にはその様なものはなくて,そこから帰納的推論に基づいて,
検証と実証,実効性の議論が行われるが,それこそがまさにイシュードリブンとなる.
そして,帰納的推論(推論を大きく2つの相に分ければ,アブダクションもこちらに分類する)は,
機械学習が「人間の帰納的な推論過程を機械で実現する技法」である限り,
その集大成として実現される人工知能に於いても,論理の形式体系に於ける限界を有する.
であれば,究極的には,人工知能とは要素還元主義的アプローチしか実現し得ず,
全体主義的議論に於いては,常に不完全性を有し,不可能なのではないか.
そこに,人工知能と人との決定的な差があって,それぞれの価値が再確認されるのでは.

人工知能は人よりも遥かに『Check-Act』を得意とするだろう.
標本調査から推測統計に基づいて行われていた時代を過ぎ,
現在は圧倒的なリソースで全数調査からベイズ統計的にモデリング出来る時代だ.
(勿論,アナログに於いては物理的なバリアは未だ残るが)
つまり,これから先,『Issue』をみつけるのは,人工知能に任せられる時代になる.
しかし,人工知能に於いては全体主義的議論は原理的に不可能だと考える.
従って,(模倣はさておいて)『Design』に於ける人の絶対優位性は残るだろう.
逆に言えば,人が人としての価値を,その真価を発揮し得るかどうかは,
そこに掛かっていると言っても過言ではないだろう.

MdN編集部:デザインのプロセス-7人の気鋭デザイナーに学ぶ仕事のやり方、考え方

プロのデザイナーのやり方,考え方を知る事ができる有意義性について,
敢えて言及するまでもないだろう.
それに,デザイナーを目指している訳ではないし,
そういう観点で読もうと思ったわけではないので,
別の観点で論じたい.

デザイナーのプロセスについて,俯瞰的にみれば,実に構造主義的だと感じる.
そして,その基で帰納的プロセスがある.
全体の関係性の定義,優先度を決めて,そして構造を設計した上で,
自分(デザイナー)と他人(クライアント)間での意見のすり合わせや議論,折衝を通じて,
初期に構築された構造をより良いものに修正していくと云う形は,
マクロにみれば,全体主義的な議論があって,その上で還元論的に,
帰納的プロセスに基づいて自己組織化していくというスキームに他ならない.
そういう意味で,デザイナーのやり方,考え方というミクロな部分よりも,
マクロにみて,その結果としてある,全体の様相を通じてこそ,
学びたい事が多々あって,得るものが大きいと感じた.
この全体の様相にみられる合理性こそ,「Design」なのだ.

桝田省治:桝田省治の発想とワザ-ゲームデザイン脳-

ゲームデザインには興味がないし,「発想とワザ」には余り興味は湧かなかったが,
マクロにみると,やはり「『Design』がある人なんだな」という思いが強く,そこが面白い.
全体を通して,マクロにみたスキームの中に何を見出だせるか.
そうしてみれば,凄く面白い役立つ本なんじゃないだろうか.
中国古典にしても,どの分野の偉人にしても,その考え方,スキームを通して,
努めてマクロに,全体論的にみた時,美しい『Design』があるというのは面白い.

奥出直人:デザイン思考と経営戦略

2章まではあまり良くない.3章以降は物凄く良い内容で,美しいDesignがあるが,
しかし,3章以降のパラダイムを言説として得れば,2章までの内容にはならないだろう.
デザイン思考とは,デザインと自然科学の考え方の良い所取りである筈で,
3章以降の内容は,まさにそれを表しているのに対して,2章までの内容では,
はっきり言えば,デザインと自然科学の悪い所取りなパラダイムになってしまっている.
3章以降はいろんな人に薦めたい良書だが,2章までは千切っておきたい.そんな本だろう.
奥出直人:デザイン思考の道具箱-イノベーションを生む会社のつくり方-
ではそういう印象は受けなかったんだけどなあ.

デロイト・トーマツ・コンサルティング:今日からできるナレッジマネジメント

ナレッジマネジメントは単に知識(ナレッジ)に留まるのではなく,
その先にある見識(ウィズダム)を見据えて行われなければならない.
それが最も重要な事であり,また単なる流行のスキームではなくて,
実効性の高いパラダイムとして合理性を得るか否かの分け目だろう.
それについて,きちんと言明している「監修のことば」が一番価値のあるパートじゃないか.
それ以降の部分については,出版当時はいざ知らず,
今ならもっと良い本があるので大して読む意味は無いかもしれない.

リクルート・ナレッジマネジメントグループ:リクルートのナレッジマネジメント-1998〜2000年の実験-

一種のケーススタディとして,或いは還元論的意味論立場から,
帰納的にこの情報量を読み解くという観点に於いて,面白い本だと思う.
しかし,Designに欠ける為,十分に理解していて,
自分のDesignへのイシュードリブンを求める,
研鑽というフェーズに於いては有意味だが,
そうでない場合は,理を得ないので読まない方が良い.
この手の本を数冊読んだ後,自分の複雑性を増すフェーズで読む本だろう.

紺野登:ナレッジマネジメント入門

凄く分かり易く纏まった本.まずはこれでナレッジマネジメントの概観を得たい.

野中郁次郎,紺野登:知識経営のすすめ-ナレッジマネジメントとその時代-

ナレッジマネジメントは大きく2つの見方ができると思う.
ナレッジマネジメントを「知識経営」と解するならば,取るに足らないつまらないパラダイムだろう.
しかし,ナレッジマネジメントを「見識経営」と解するならば,これ程重要な考え方は無く,
また,まさにこれからの時代に求められるパラダイムだろう.
本書では,あくまで「知識」の枠組みで言説が述べられているが,
しかし,本書で真に重要であると言及されているスキームは,その実「見識」だろう.
その意味では,まさに「見識経営」としてのナレッジマネジメントのパラダイムが,
本書では最も重要なステートメントとして述べられていると考える.
因みに,現代のビッグデータ解析の潮流と整合的に解釈するならば,
「情報」→「知識/経験」→「見識」(→「胆識」)というレジームは,
それぞれ定量的には「情報量」の差という観点で説明でき(胆識は必ずしもその限りではない),
「複雑性/ランダムネス」という尺度で説明する事ができるだろう.
であれば,本書では殊更に「情報」と「知識/経験」を区別していたが,
本質的には単に情報量から生じる複雑性の差に過ぎないと云える.
重要なのは,その差というのが連続的なものではなくて,
それぞれが相を為していて,その間には相転移点があり,
転移という過程によって連続的でありながら,
しかし大きなバリアがあって断絶しているという事だ.
「情報」の波から役立つ枠組みを見出す事で「知識」となる.
そして,点に過ぎない「知識」から想像性と創造性の基で「知の相転移」を生み,
単なる点に過ぎない「知識」が円を描く様な「見識」というパラダイムに昇華される.
本書は,その「見識」がいかに重要か,そして見識に基づいたマネジメントとは,
という事について,明確なパラダイムとして提示されていないまでも,
その論理の形式体系を考えれば,明らかにそれについてのスキームが言及されている.
単なる「知識」の枠組みでしか意味を見出だせなければ,本書は取るに足りない下らない本だが,
「見識」のパラダイムで本書の意味を見いだせれば,本書は実に面白い価値のある一冊だろう.

奥出直人:デザイン思考の道具箱-イノベーションを生む会社のつくり方-

「野中郁次郎,紺野登:知識経営のすすめ-ナレッジマネジメントとその時代-」
を読んだ後に本書を読んだが,驚く程に,そこにある「Design」に共通性を感じた.
強いて云えば,論理的には(主となる論理は)ナレッジマネジメントはミクロな観点から立ち,
帰納的プロセスに基づいてステートメントの展開が為されているのに対して,
デザイン思考はマクロな観点から立ち,演繹的プロセスに基づいてステートメントが展開される.
第一義的に,ナレッジマネジメントは還元論的観点から合理性が得られるものであり,
デザイン思考は全体論的観点から合理性が得られるものであろう.
従って,双方の論理の形式体系に於ける限界性と,論理的整合性,実証的妥当性については,
その結果として得られる,部分合理性,全体合理性については,
「Design」に於ける議論に等しく,明らかであるが,
しかし,それぞれの本に於いて,結果として「イノベーションを生む会社」
「これからの時代に勝ち進める会社」という目的への解として得られるものは,
驚く程に近似しており,それこそが求められるパレート解なのだろうと納得させられる.
実に面白く,知見に富んだ本であると感じる.
是非,「野中郁次郎,紺野登:知識経営のすすめ-ナレッジマネジメントとその時代-」
と合わせて読みたい.

木全賢,松岡克政:マインドマップ-デザイン思考の仕事術-

本書については,深く語る事は無いというか,寧ろ変に言葉にするとその価値が失われるというか.
感じる事が全てだと思う.こういう言い方をすれば失礼だが,
本書はカラーページにこそ,その真の価値が見出だせるもので,
カラーのマインドマップをみて感じる片鱗にこそ,デザイン思考の真価があると思う.
巧く言葉にできないし,多分言葉にしてしまった時点でそれは別物になってしまうが,
自分が考える「Design」という考え方と,このカラーページに認識されるスキームの中に,
一種の共有知や暗黙知をみるのだろうか.ぶっちゃけ,「マインドマップ」すらどうでも良くて,
まずはカラーページから得られる認識,スキームにじっくりと想像を傾け,思惟に耽りたい.

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