円の長期的展望:「円高」か「円安」か

ブルームバーグインテリジェンスの「避難通貨」指数が何を以て算出されているのか分からないが,あまり意味があるとは思えない.結局,通貨は需給バランスで決まる.その先行ファクターとしてインフレ期待がある.円の需給はほぼ国内要因で決まる.経常黒字が円高バイアスになるのも,円の需要が増す事に他ならないし,「有事の円買い」も詰まる所,「円のプレイヤー」とは円資産を主とし,リスクオフ時に無リスク化する動きが円というキャッシュに戻す動きに他ならない.日本の国力だとか,円が他の資産より安全だとか,プロキシになっているという説明は,必ずしも間違いではないが,尤もらしいとは云えないだろう.分かり易い例を挙げれば,リスクオフ時に元を信用できない中国人はビットコインを買うが,円を買ったりはしない.円の主要プレイヤーはあくまで日本人しかいない.

3つの要因として,今後の円は必ずしも上方リスクよりも下方リスクを考えるべきではないか.第一に,BISサーベイによれば,円の取引量が減少している事.減り続ける円の取引シェアは,円需要の低下を意味し,長期的に円安バイアスとなる.一方で,ドルの一極集中化は変わらず,今後も人民元やアジア市場の拡大が続けば,ドル依存の拡大は続き,ドル需要の増大を生むだろう.第二に,金融緩和下に於ける日本のインフレ期待と,その影響である.日本に於ける問題は,端的に云えば「フォワードルッキングな期待形成」という経路が余りにも弱く,その結果として十分な実効性を得られなかった事だろう.であれば,今後の展開について,おそらく日銀は「適合的な期待形成」という経路に重点をおき,メカニズムをデザインしていく事になるだろう.その時に問題となるのは,「長期戦/持久戦となる事」であり,「動き出すと今度は燃え尽きる迄止まらなくなるという事」だろう.第三に,グローバリゼーションの逆流,国際貿易の衰退によるリスクが挙げられる.日本は今「低成長」「縮小する国内経済」「人口減少」という問題を抱えており,
GDPの約58%を外需に頼っている.弱る内需が円高を助長しているのは皮肉だが,仮にグローバリズムの逆流が進めば,これまでの動きの逆が起こる事は容易に想像できるだろう.TPPは一つの分岐点であり,グローバリズムの波を止めず,歩みを進めていくのか,グローバリズムの逆流に飲まれるを由とし,TPPを止めるのか.TPPをやめれば,それは長期的には円安要因と考える.また,これは米国をみれば顕著だが,グローバリゼーションは世界に巨万の富と貧富の格差を生んだ.利益の相反を生じた.グローバリゼーションの逆流は,これらの逆を生むだろう.ローカリゼーションと,巨万の富の消失,貧富の格差は是正され,利益が相反しない単位での組織化が進む事になるだろう.円を取り巻く需給構造の変化,経済リスクは,円高よりも円安リスクの高まりを示唆する.

日本にとってどちらが良いか.一番良いのは規範的に全体合理性を得た上で,仁を満たすべく富の再分配メカニズムがデザインされる事だろう.しかし,それが実現し得なかったからこそ,今の有様であれば,既得権益者にとってはグローバリゼーションの継続だろうし,そうでない者にとっては,グローバリゼーションの逆流は必ずしも悪い事ではないだろう.痛みを伴う改革とも云える.米国大統領選は,そういう側面でも解せる.ともかくとして,長期的にみれば,「円高」から「円安」というレジームチェンジを予想すべきではないか.そうなるか,一つの試金石として,コモディティ相場と資源国の動向をみる.資源国と非資源国の富の分布とその移行について,これらは信用需要の拡大と縮小と共に注意深く考える必要があるが,今後の展望について大きく示唆を与えるものと考える.

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